井田ゆき子(20回生)

作家・森真沙子さん(11回生)の新シリーズ「柳橋ものがたり」は昨年8月にスタート。これまで3巻が発売され、重版となる人気シリーズに成長している。

物語の舞台は、江戸一番の花街・柳橋の入り口に建つ船宿『篠屋』。時は、世情不安が高まりつつある幕末。主人公は、住み込み女中の綾、二十八歳。武家の娘・綾がなぜ船宿の住み込み女中になったのか。その謎は明かされぬまま、篠屋で巻き起こるさまざまな事件の顛末が綾の目を通して描かれる。登場人物は、幕臣旗本や薩摩藩士、売れっ子の美人芸妓、猪牙舟の船頭、岡っ引きなど多士済々。女優・市原悦子さん主演の人気テレビドラマシリーズ「家政婦は見た」のお江戸版ともいえそうな作品だ。

 最新刊「渡りきれぬ橋 柳橋ものがたり③」は、この8月末に上梓された。「この橋の向こうには、何かが待っている。渡りきれれば…」との思いを胸に、ままならない日々を生きる庶民の哀歓を描く。1話ずつ読み切りスタイルで全5話を掲載。森さんの代表作「箱館奉行所始末(5)」とはまた違ったしっとりした筆づかいが魅力だ。主人公・綾の素性と秘められた過去が少しずつ明らかになっていくストーリー運びにも惹きつけられる。人気女優の主演によるテレビドラマ化を期待したくなる小説だ。 

◎二見書房オンライン書店https://www.futami.co.jp/fjb/、または楽天ブックスの電話注文☎0120299625で購入できる。

渡りきれぬ橋_20191016_0001
























▲かつて柳橋に多数あった料亭のひとつ萬八楼。柳橋の船宿からは吉原へ通う猪牙(ちよき)舟が出ており、また隅田川の涼み舟も往来し、江戸文人の社交の場であった。

柳橋萬八楼